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松山地方裁判所 昭和34年(ワ)309号 判決 1961年8月23日

原告 三共株式会社

右代表者代表取締役 寺田良之助

右訴訟代理人弁護士 菅生謙三

被告 越智信茂

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が昭和三四年四月二八日別紙目録記載の物件につき訴外日野信一との間にした代物弁済契約はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因として、「原告は訴外日野信一に対し昭和三〇年三月から同三四年四月末日迄の農薬等の売買を原因として生じた売掛代金二一、九八五、六〇〇円の債権を有するところ、右訴外人は同三四年四月末日現在資産約金三五、〇〇〇、〇〇〇円に対し負債約金九〇、〇〇〇、〇〇〇円という多額の債務超過状態にありなが、原告その他の一般債務者を害することを図り、自己と特殊関係にある被告に優先弁済をなすため被告と共謀の上、同年四月二八日被告に対する借入金の支払に代えて本件物件を給付し、以て被告と代物弁済契約を結んだ。よつて右代物弁済契約の取消を求めるため本訴に及んだ。なお原告は同年五月一一日金三九、九四四、四三八円の債権者として右訴外人に対する破産宣告の申立をなし、同年八月一二日午前一〇時松山地方裁判所において同人に対する破産宣告がなされた。」と述べ、証拠として甲第一ないし第三号証、第四号証の一ないし三、第五ないし第九号証を提出した。

被告は適式の呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他準備書面を提出しない。

理由

公文書なるによりその成立を認めうる甲第三号証および弁論の全趣旨によれば訴外日野信一は昭和三四年八月一二日午前一〇時松山地方裁判所において破産宣告を受け現在その手続が続行中であることが認められ、原告が本訴を提起したのが同月二五日であることは訴状に押捺された受付印により明らかである。

そうすると原告は本訴において債権者として破産者の詐害行為につき民法第四二四条の取消を求めていることになるのであるが、債務者が破産宣告を受けた場合はその詐害行為について破産法第七二条第一号の否認権を生じ同法第七六条によつて破産管財人が訴によつてそれを行使すべきものであつて、破産債権者は民法第四二四条の取消を求める訴は提起できないものといわねばならない。一方破産法第八六条は債権者が民法第四二四条の取消権行使のため提起した訴が破産宣告当時係属する場合は破産手続継続中破産債権者自ら右訴訟を追行する権能を有しない旨を明らかにしているのであるから、この規定に照しても債務者が破産宣告を受けた後破産手続継続中は破産債権者が新たに訴を提起して民事訴訟法第四二四条の取消権を行使する権能を有さないことは明白である。

結局本件は民法第四二四条の取消を求める訴が許されない場合であるのみならず、破産者たる右訴外人の詐害行為について訴をもつて否認権を行使する場合であつても原告は当事者適格を有さず、いずれの点においても本件訴は不適法であるからその余の点を判断することなくこれを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊東甲子一 裁判官 仲江利政 堀口武彦)

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